
このプロジェクトのスタートは遡ること8年前の2004年。
まだメジャーもアンダーグラウンドも右も左もかろうじて座標というものが存在していた音楽シーンに、ジャズミュージシャンの方々を中心とした新しい潮流が、ジャズのみならずシーン全体に影響を及ぼすだろうという匂いを孕み始めた頃、『BOYCOTT RHYTHM MACHINE』というアルバムとなって生み落とされ、始まりました。
そのアルバムの制作中、彼方此方のライブに通い、レコーディングに立ち会う中で、ジャズミュージシャンの方々が持つ「即興演奏」に対する研ぎ澄まされた感覚に強烈に惹かれていきました。ジャズというフォームでは最も根深いところに位置する考え方。 それは単にプレイに留まらず、行動のすべてが即興の積み重ねであり、個人として独立して生きるとはどういうことかという所までをも含んだその考え方を、肌身を持って知る機会に恵まれました。
その感覚をどうにかして共有したい。
続く『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II VERSUS』はそういった欲求から生まれました。
"初めて顔を合わせる二組に、即興で、1日で作品をつくってもらう" というテーマのドキュメント作品として、ジャズを中心としたミュージシャンと異ジャンルの若手ミュージシャンとが対戦形式で「VERSUS」することで、年齢やイディオムの違う音楽家同士のぶつかり合いから溢れ出す、新しい音楽と言葉を綴じ込められたら、という考えのもと、8ヶ月かけて作品は完成。結果、とても大きな反響をいただくことができました。
その後、2009年、2010年に「対戦型即興」というコンセプトを残し、ライブヴァージョンを開催。
ライブでは、より感覚的に鋭敏に生の音楽を体感できる環境を提示したいということでシチュエーションに徹底的にこだわり、"セッション"とは一線を画すような、音によって交わされる人間同士のコミュニケーションの核そのものを抽出しようと試みました。
当然ながら2011年もライブを行いたいと思っていた、まさにその矢先に、東日本大震災はやってきました。
その時、もはや「VERSUS」なんていう取り組みは出来ないと直感的に思いました。
音楽によるバトルなんて何の意味も持たない、そんな事をしている場合ではない、と。
当初3月16日に行う予定だった <スガダイロー vs 向井秀徳> は当然のごとく、震災の影響により開催を延期しました。
震災前に決めていた最新の「VERSUS」、振替日程は5月11日。地震からまだ2ヶ月という時期に開催する事になりました。
今でも、当日を思い出しながら、その日のことを自分はうまく言葉にして説明出来ません。
あのような難しい時期にあっても、向井さんとスガさんの二人が見せてくれたのは、それでもDUOやセッションではなくて、純粋な「VERSUS」だったような気がします。
そして、まだ全く先の見えない状況の中ですら集まってくださったお客さんはそれを察知し、これまでのように新しい音を感じたいとか、プロレス的ゲーム性のようなものを求める雰囲気ではなく、男と男の真剣な対決を固唾を呑んで見守りながら、体の中にステージ上の出来事の隅々までを噛んで砕いて摂取していくような、それでいてなぜかとても暖かい空気に会場全体が包まれたのを覚えています。
そこからまた3ヶ月が経ち、自分の背中をさらに押してくれたのは、8月15日に大友良英さんらが開催した<フェスティバルFUKUSHIMA!>でした。
放射線の影響を軽減させる措置を考えながらの、人類史上初めての音楽フェスティバル。
会場には行けず、それでも1日中USTREAMで生中継される3つのチャンネルに釘づけになっていた中で始まった、「詩の礫」。
和合亮一さんの詩の朗読に、即興で大友良英さんのギターと坂本龍一さんのピアノが音を紡いでいく様子を見つめながら、音楽が与えてくれる、ある偉大な力に気づきました。
それは、今鳴らされている音楽を通じてその音楽家の想いを想像する事、その音楽家同士の関係性を想像する事、それらをふまえて、自分と対峙する事。
音のなかに音楽家の生い立ちを感じ、これまで生んできた音楽をつぶさに見つけ、そのひとつひとつを紐づけ、
その音楽家と自分との出会いや関わり、音を通じて培ってきた数多の思い出を辿り、そのひとつひとつを紐づけ、
それらを、丁寧に、編み込み、織り込む。
演奏を聴きながら、自分自身と深く向き合うことが出来ました。
そして、そのような気づきが生まれ得るのは、音楽家同士が真剣に向き合い、無心から音楽が立ち上がる瞬間に喚起されるものだと確信しました。
このとき、ようやく決心がつきました。自分がやってきた仕組みをこれまで通り変えずに、進めていいんだと思えました。
このイベントでは、美しく甘いハーモニーが響き続けたり、踊れるリズムが流れ続けたりはおそらく、しません。
会場が一体となって決まったメロディを歌う事もないと思います。
一般的に”音楽”と呼ばれる型のものは、もしかしたら最初から最後まで鳴らないかもしれません。
でも、3月21日、後楽園ホールに集う、世界中から愛されている日本人の音楽家から発せられるその音を聴き、
一挙手一投足を見守るという原始的な所作が、あなたにとって間違いなく震えるような圧倒的体験になると思います。
その刻その地がどんな感情の産まれる「場」になるか。
自分も観客のひとりとなって、全神経を集中して体験したいと思っています。
2012年、個人が、即興的に社会を生き抜いていかなければならない時代が本格的に幕を開けました。型だけの世界は終わりです。
3月21日を見届けた後に、なにをBOYCOTTし、なにとVERSUSするべきかが明確に見えてくる気がしています。
その日を、一緒に楽しみましょう!
2012年1月6日
vinylsoyuz 清宮陵一